映画『ミッドナイト・サン タイヨウのうた』レビュー

うた唄いの恋

 つまらない作品がリメイクされることはないが、その逆は十分にあり得る。しかも、『ちはやふる』三部作のヒットメイカー小泉徳宏監督の長篇デビュー作であり、YUIの初々しい演技と歌声とともに今なお愛され続ける『タイヨウのうた』(06)ともなると、地元日本では自ずとハードルも上がる。

 その米国版リメイクというリスキーな企画ではあるが、本国で子役時代より活動するも、こちらではあまり馴染みのないベラ・ソーンと、父君アーノルド・シュワルツェネッガーにいい意味で似ていないナイーヴさも魅力のパトリック・シュワルツェネッガーとの、新鮮なカップリングが功を奏している。太陽光が命取りとなるXP(色素性乾皮症)をめぐる、治療法など未だ研究が停滞気味の厳しい現状を忍ばせつつ、病に苦しむ直接的な描写は極力排し、日常を彩るささやかな幸せを慈しむことだって闘病であるというスタンスは、オリジナルから引き継がれた美点だ。百万人に一人ともいわれる難病に“選ばれてしまった”少女による、死と隣り合わせの日々を送るがゆえに生まれた名曲が、密かに好意を抱き続けていた青年の心をも掴み、夜と朝のあいだの束の間のひとときを二人で過ごすようになる。

 妻亡き後、爆弾を抱える我が子の寿命を少しでも延ばすべく、日中は光を遮断した室内に押し込め、遊びたい盛りの愛娘の青春を奪ってしまった父の葛藤。『ハングオーバー!』シリーズなど名コメディアンとして知られるロブ・リグルとソーンとの、コミカルながらも互いを気遣うやり取りが、喜びと悲しみが表裏一体の人生の機微を切なく映し出す。

 勢いで自ら告白したYUIに比べ、やや消極的だったヒロインが、刻一刻と病状が進行する中で、まぶしい陽の射す最初で最後の恋へと、命懸けで踏み出していく。その長さに関わらず、与えられた天寿を力の限り全うし、生の証を遺すことの意義を謳い上げる、清々しい佳篇である。

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ミッドナイト・サン タイヨウのうたのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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