映画『15時17分、パリ行き』レビュー

普通の人々

御年87歳、巨匠イーストウッドの最新作はまるで一筆書きの水墨画の如くシンプルを極めた作品だ。
ここ10年、実在の人物を扱った実録モノを手掛けてきた御大は本作で評伝としてのドラマ性を捨て、さらにはスターどころか俳優も捨て、事件に遭遇した当事者本人達に演じさせるという実験性で2015年にパリ行きの列車内で起きたテロ事件を描いている。ランニングタイムは前作『ハドソン川の奇跡』同様、わずか90分強。ここには90年代、ベストセラー小説の映画化で何が何でも主役を演じたナルシズムもなければ、前作でトム・ハンクスがコピーしたような“イーストウッド的キャラクター”の記号も存在しない。では一体、何を描こうとしているのか?

従来の劇作とは主人公の人生におけるある出来事を切り取って2時間の尺に収めるものだ。
本作ではスペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトスら3人の少年時代と2015年を往復しながら事件へと至る構成を取っている。テロと直面するまでの欧州旅行はまるで台本もコメディアンもなしに延々と続く『ハングオーバー』のようであり、映画として何も起こらない。だが、人生とはそんなものであり、転機は突如として訪れるものだ。俳優ではなく本人が演じる事で浮かび上がってくるのは「いったい自分の人生はどこにつながっているのか?」という運命論なのである。

イーストウッドがこのスタイルを選んだのは確かな理由があるのだろう。クライマックス、テロに遭遇した人々を素早く活写する筆の早さは『ハドソン川の奇跡』にも見受けられた。手を取り団結し、恐怖を乗り越えていく人々の連帯が今の時代だからこそより尊い事は言うまでもない。イーストウッドは今もなお挑戦し、時代と向き合っている。

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15時17分、パリ行きのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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