映画『シェイプ・オブ・ウォーター』レビュー

水のかたち

声なき者たちの映画だ。
主人公イライザは口が利けない。首筋にはまるでエラのような傷跡。きっと幼い頃に虐待を受けたのだろう。今は政府機関の深夜清掃バイトで日銭を稼ぐ日々だ。誰からも見向きもされない生活。楽しみは映画、特にミュージカル映画が好きだ。

そんな社会の片隅に生きてきた人たちが大事件に直面する。ギレルモ・デル・トロ監督の美意識が全編に貫かれた『シェイプ・オブ・ウォーター』は60年代を舞台にしているが、トランプ時代を揶揄している事は明らかだ。マイケル・シャノン扮する役人はまるでトランプのような下卑た人物で、初登場のトイレシーンからもこのキャラクターがどれだけクソ野郎かわかる。半魚人を嬉々として拷問し、女は性の対象としか見なさない。車と出世に成功を象徴する価値観からもトランプ的アメリカ白人が見立てられている事がわかる。

対するイライザ達は腕っぷしも強くなければ、声を大に訴える事もできない。マイノリティ達に勇気を与える半魚人の存在はまるで彼らの守護聖人であり、両者を結びつけるのが愛、それもとりわけ“映画愛”である。孤独な者たちに夢を与える映画の存在が人々を連帯させていく。これまでになく優しく、愛に満ちたデル・トロの筆致。半魚人が初めて見るスクリーンの前で我を忘れるシーンが美しい。

肌の違い、性の違い、言葉の違い…それが何だというのだ。憎悪はまるで形のないものに根拠している。そして愛もまた水のように形のないものだ。僕たちはあまりにも“かたち”に捉われ過ぎてはいないだろうか。ファンタジー映画としてのアカデミー作品賞受賞はそんな固定概念が取り払われ、今までにない新しい“かたち”が生まれた瞬間に思えた。

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シェイプ・オブ・ウォーターのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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