映画『ナチュラルウーマン』レビュー

白昼夢の人

米チリ。
昼はウェイトレス、夜はナイトクラブの歌手として暮らすマリーナは元男性のトランスジェンダーだ。
会社社長を務める年上の恋人オルランドとの何不自由のない暮らしを送っていたが、マリーナの誕生日の夜、彼は心臓発作でこの世を去ってしまう。最愛の人を失った彼女に、さらに厳しい現実が突きつけられる。病院や警察は彼女を一見するや犯罪性を疑い、オルランドの遺族は彼女からマンションを取り上げ、葬儀への参列を拒否する。愛する人に別れを告げたい。その一心でマリーナは街をさまよう。

マリーナを実際にトランスジェンダーであるダニエラ・ヴェガが演じる本作は今日的な1本だ。ヒロインが直面するいわれなき迫害、人々の反応はおそらくヴェガの実体験はじめ、多くの見聞に裏打ちされている事は容易に想像がつく。『リリーのすべて』がハリウッドライクな美談に終始したのに対し、本作には当事者でしかわからない豊富なニュアンスが込められているのだ。実直なヴェガの演技が胸に訴える本作はアカデミー賞で外国語映画賞に輝いた。

監督のセバスチャン・レリオはマリーナの魂の彷徨を南米特有のマジックリアリズムで描く(フランソワ・オゾンの『まぼろし』とも邂逅する)。だが、ディテールが細かやでも被差別者との間の溝には言及がされていない。分断の時代にその先を見据えた視野の広さが欲しかった。

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ナチュラルウーマンのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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