映画『ハッピーエンド』レビュー

ブルジョワジーの秘かな哀しみ

 ひとの愚かなエゴや悪意を、容赦なく露わにし、1作ごとに物議を醸してきたミヒャエル・ハネケ。そんな異才の5年ぶりの新作にして、この確信犯的シニカルなタイトルゆえ、どれほどえげつない修羅場を見せられるのかしらん……と相当の覚悟で臨んだものの、意外や意外、妙に風通しのよいユーモアを散りばめつつ、あるブルジョワ一家の崩壊へと向かう顛末を、共感すら込めて見届ける、”いじわるハネケ”の新境地とも思える好篇であった。

 舞台となるのは、フランスの港町カレー。深刻度を増す移民問題などどこ吹く風の、建設業を営むロラン家は、現場で起きた地滑り事故の事後処理に追われているが、それすら無関係とでも言いたげな、責任逃れを続ける。引退したジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)の後を継ぐ娘アンヌ(イザベル・ユペール)が期待をかける息子も気弱で頼りなく、家業の未来は暗い。

 3世帯が暮らす豪邸の新たな住人となった、迷える少女エヴ。母の突然の入院で、離婚した父の実家に身を寄せた格好だが、その奥底には深い闇を秘めていた。家族の前ではボケたふりをしつつ、死に場所を求め続けるジョルジュは、そんな孫娘の苦悩を見抜き、死への誘惑と誰にも言えない秘密とを、分かち合うことになる。前作『愛、アムール』(12)の影を色濃くまとう役柄に挑むトランティニャンの、鬼気迫るひとり語りが胸を打つ。

 事故の瞬間を淡々と映し出すモニター画面や、エヴの父が愛人と交わすメールの、赤裸々な内容とは裏腹の無愛想な文字の羅列が、フィルターを通すことで自分の現実さえ他人事と錯覚しかねない、現代病の身体感覚の欠如の危うさを示唆する。とりわけ、冒頭とエンディングで、SNS命のエヴのスマートフォンの映像が印象的に使われるが、両者の肌合いは明らかに異なる。祖父から孫への渾身の贈りものは、死に囚われた彼女の心に、生の光を灯したに違いないから。

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ハッピーエンドのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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