映画『ゴッホ 最期の手紙』レビュー

芸術宇宙

1890年に拳銃自殺を遂げたフィンセント・ファン・ゴッホは生前、弟のテオと何百通もの書簡をやり取りしていた事でも知られる。彼の死後、未達の手紙を手に入れたアルマン・ルーランは受け取るべき人を求めてゴッホ晩年の地、オーベル=シュル=オワーズの農村を来訪、巨匠の死の真相を探るのだが…。

この物語をドロータ・コビエラ、ヒュー・ウェルチマンの監督コンビは“ゴッホの油絵のタッチでアニメーション化する”という驚くべき手法で映像化している。お馴染みの作品群『医師ガシェの肖像』『オーヴェルの教会』『ピアノを弾くマルグリット・ガシェ』『カラスのいる麦畑』等々がぐわんぐわんと捻じれて動き、そこにクリント・マンセルのスコアが被さると不可思議な夢のような酩酊感だ。

点と点であった諸作は線で結ばれ、やがてゴッホが吸った空気感すら観る者に錯覚させて、巨匠が追い求めた芸術宇宙を形成していく。肖像画として所縁の人々はまるで『羅生門』の如く口々にゴッホを語り、それはあたかも個々の作品が巨匠の側面を照らし出しているかのようだ。本作はコンセプチュアリーなアートフィルムに留まらず、ゴッホ評伝映画としても決定打と成り得ている。

100人を超える画家たちによって描かれたこの労作は今年のアカデミー賞で長編アニメ賞にノミネートされた。

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ゴッホ 最期の手紙のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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