映画『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』レビュー

猫の倍返し

 英語題”Legend of the Demon Cat”からも明らかなように、驚愕の(!)切ない秘密を抱えた黒猫の化身が引き起こす復讐劇を発端に、かの楊貴妃の死の真相が紐解かれていく。ぶっ飛んだ歴史的解釈に基づき、現実と幻想がダイナミックにクロスする、チェン・カイコー監督久々の心躍るエンターテインメント巨篇である。

 その謎に挑むのは、若き日の空海(染谷将太)と詩人・白楽天(ホアン・シュアン)。同じ夢枕獏原作の『陰陽師』と『シャーロック・ホームズ』のいいとこ取りをしたような絶妙のコンビネーションで、時に衝突しながらも、虚飾にまみれた史実に風穴を開ける。キャストの大半を中国の実力派俳優陣が占めるが、国内で公開されるのは日本語吹き替え版のみ。中国語の猛特訓に励んだという染谷も自身の声を吹き替えているため、序盤は”リアル腹話術”のような違和感もチラつくが、次第に慣れてくる。膨大な情報量に、時代を頻繁に行き来しつつ二転、三転する展開を、絢爛豪華な長安の街を丸ごと作り上げた贅沢な映像世界に浸って堪能するためには、致し方ない選択だったように思う。

 美人は得なのか、損なのか。永遠に答えの出ないテーマであるが、”世界三大美女”の誉れ高い楊貴妃ともなると、その美がもたらす波紋も、尋常ならざるスケール。寵愛を受けた玄宗皇帝のみならず、出逢った男すべてを魅了し、その気にさせ、狂わせる。愛は同時に嫉妬をも生み、唐王朝を揺るがし、彼女自身の運命も悲劇の渦に呑み込まれる。『光にふれる』(12)『52Hzのラヴソング』(17)などでも存分に活かされたチャン・ロンロンの溌剌とした美貌と、吹き替えを務める吉田羊の落ち着いたトーンの声とのギャップが、ミステリアスな楊貴妃の複雑な内面を見事に具現化する。

 後の伝説の僧侶と大詩人による、エピソード0的な本作。シリーズ化に期待大だが、予算的に不可能か?

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空海 KU-KAI 美しき王妃の謎のポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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