映画『スリー・ビルボード』レビュー

生きてるものの記録

 ひとは、いつか必ず死ぬ。それだけは、誰にとっても確かな真実であるはずなのに、何故こんなにも、うまく生きられないのか。死にたいと願えば願うほど、死神は遠ざかり、幸せの絶頂で、予期せぬ病や厄災が降りかかる。

 本作を彩る面々も、皆どこか、生きることに行きづまっている。無残なかたちで、娘の命を奪われた母親。美しい妻と母親似の愛らしい二人の娘を遺して、死にゆかねばならない警察署長。マザコン気味でキレやすく、職業を間違えたようにしか見えない巡査。ちと背は低いけれど、心は男前なビリヤードの達人……。人通りの少ない田舎町の道沿いに、娘を殺されて7か月経った今も一向に捜査が進展しないのに業を煮やしたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、近隣住民や部下からも慕われるウィロビー(ウディ・ハレルソン)を糾弾するショッキングな3枚の広告看板を出したのを機に、彼女らの人生が否応なく交錯し、運命の歯車が目の回るスピードで急転する。

 昨年のヴェネツィア国際映画祭に続き、先日発表されたゴールデン・グローブ賞でも、脚本賞を受賞したマーティン・マクドナー監督は、気鋭の劇作家でもある矜持からか、ありがちな予定調和を真っ向から否定し、こちら側の予想をことごとく裏切っていく。後先考えてスマートに振る舞う人間なんぞ絵空事に過ぎない、と言わんばかりに、安易な共感も同情も拒絶する手強いクセ者たちは、神の怒りを買おうが、法的には完全にアウトであろうが、とにかく自らが正しいと信じる道を爆走しながら命懸けで駆け抜け、それぞれの流儀に則したやり方で、落とし前をつけていく。

 さんざん涙腺を翻弄された挙句に、意外な方向から突如として舞い込んでくる、かすかな希望。とてつもない力業で、”一寸先は、光”を現前させて見せてしまった、恐るべき快作だ。

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スリー・ビルボードのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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