映画『オリエント急行殺人事件』レビュー

大劇場芝居

そろそろ“リブート”と言い換えられる昨今のリメイクブームを目くじら立てずに楽しんでもいいんじゃないか。1974年にシドニー・ルメット監督によって映画化されたアガサ・クリスティ原作『オリエント急行殺人事件』の再映画化だ。

監督、主演を務めたケネス・ブラナーは演劇人ならではの自覚性でこの“再映画化”という企画に取り組んでいる。演劇の世界では同じ演目でもキャストを入れ換え、演出を変える事は当たり前。シドニー・ルメット版以来“クリスティ原作モノは豪華オールスターキャストで”という不文律を踏襲し、お約束とアレンジの楽しさを信条に再映画化している。

冒頭、残念な事に今、最もタイムリーな場所となってしまったエルサレムでエルキュール・ポアロが3大宗教のバランスを取り戻す。本編には関係しないイントロダクションだが、この先見性、普遍性にブラナーの演出家としての才覚がある。彼はCGと豪奢なセットを組み合わせ、しっかり舞台設定をして演目を開演。意欲的に長回し等トリッキーなカメラワークで遊び心も絶やさず、乗客となるキャストを手際良く紹介して出発進行だ。

ルメット版はオールスターのアンサンブル映画という印象だったが、面白いことに本作はブラナーの独壇場だ。従来のポアロ像とはまるで違う長身痩躯に異常な口ひげを蓄え、うさんくさい仏語を操る曲者だが、正義感が強く、直情型でもある。ブラナーの演技はいわゆる大ホールの舞台を意識した大芝居で、列車から飛び出すクライマックスの大味さといい、定番演目は大衆作品として大きくあるべしというポリシーが伺えた。あんなマイナス20℃はあろうかという屋外で種明かしを始められたら寒くて自白するよ!!

“次回は『ナイル殺人事件』!”というフックも楽しいので、ぜひともジェームズ・ボンドばりのキャッチーなテーマ曲を作って正月映画の定番となって欲しいところだ。

6
オリエント急行殺人事件のポスター
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0
長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

映画『オリエント急行殺人事件』に対する長内那由多さんのレビューにコメントする

こんな作品もレビューされてます

オーシャンズ8のポスター

ジュエリーは盗めても、僕のハートは盗めない。

  色男たちが大胆な盗みを働く「オーシャンズ」シリーズを、...

散歩する侵略者のポスター

散歩する黒沢清・・・

 または散歩する黒沢清は侵略者という言い方が良いのか・・・ ...