映画『ノクターナル・アニマルズ』レビュー

夜の獣たちの鳴き声

華やかに舞う裸の巨女たち。混沌と捻じれたハイウェイ。アートギャラリーを仕切る主人公スーザンのファッショナブルな日常と、彼女に送り付けられた小説『夜の獣たち』(=ノクターナル・アニマルズ)の暴力的なテキサス荒野。美醜が入り乱れるトム・フォード監督最新作はデビュー作『シングルマン』同様、徹底した美意識で統一されているが、スタイルよりも叙述が優先されている。

スーザン(エイミー・アダムス)のもとに20年前に離婚した夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から著書が送られてくる。若気の至りで学生結婚をした2人。情熱や繊細さ、何より互いのアーティスティックな感性に惹かれて結婚したが、長くは続かなかった。経済的裕福さを求めて再婚したスーザンだったが、今の夫は不誠実で、他の女の影がある。小説のページをめくった。冒頭の献辞には“スーザンへ捧ぐ”。

映画は現実と劇中小説を交互に映していく。
エドワードの書いた小説は強烈なバイオレンスものだ。テキサスを走行中のギレンホール一家が地元の暴力的な若者たちにからまれる。さらわれた妻と娘は翌日、全裸死体となって発見された。末期がんを患う保安官は法の裁きが及ばない彼らに正義の鉄槌を下そうとする。

スーザンは何度も小説を閉じる。どうしてこんな暴力的な小説を私に?でも読むのが止められない。文章にあてられ、揺れ動く心。エドワードに「会いたい」とメールを送った。

創作とは時に深い喪失と激しい苦しみを伴う。エドワードは長い年月を経て、ようやく自分の思いを上梓する事ができた。それはスーザンとの決別を意味する。自らを劇中小説内で殺したエドワードがスーザンのもとに現れないのは当然だ。創る者と創らざる者の間に横たわる厳然たる溝。これは愛と喪失の物語である。トム・フォードは今回も喪う事の哀切を描き切った。アダムス、ギレンホールの素晴らしさは言うまでもない。

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ノクターナル・アニマルズのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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