映画『ドリーム』レビュー

空を見上げろ、歩けよ乙女

僕は歴史の負の遺産に向き合うアメリカ映画の健やかさが好きだ。
1961年、ヴァージニア州。未だ人種差別が色濃い時代にNASAで宇宙開発に携わった黒人女性たちがいた。数学の天才である彼女らはやがてアメリカの宇宙開発計画“マーキュリー計画”に関わる事になる。原題は“Hidden Figures”=「知られざる人々」だ。

NASA勤務とはいえ、彼女ら黒人が働くのは1Km近く離れた別館だ。配置換えで本館勤務となったキャサリンだが、信じがたい事に当時は白人と有色人種のトイレは別々で、彼女は何度もトイレと職場を往復する羽目になる。至極シンプルな映画的動体運動で演出したセオドア・メルフィ監督がいい。この“歩み”という運動こそ本作のテーマであり、映画は時に集団で、時には白人にその道を走らせる反復を繰り返し、僕たちは先人たちの苦難の歴史を垣間見る事となるのだ。

彼女らは優れた才能を持っていたが、天才だから事態を打開できたわけでは決してない。夜学に通い、独学で勉強してキャリアアップをし、成功を手にした。古今東西どこにでもある職場の愚痴から言葉面ではないワークライフバランスを手にしていく展開は“ワーキングドラマ”としても楽しい。

名画座で二本立てをやるならカップリングは83年のフィリップ・カウフマン監督作『ライトスタッフ』だろう。
あの映画でサム・シェパード演じたチャック・イェーガーに訪れた時代の黄昏が本作にも一瞬、射し込む。しかし、どんなに文明が科学が発展してもそれを成すのは人間だ。僕たちは混迷の現在、自らの力で時代を切り拓いた彼女らの努力、融和に学ぶべきではないだろうか。批評家賞寄りとなってしまったオスカーでは3部門ノミネートに留まったが、本作の持つ同時代性は候補作中1番の大ヒットにつながった。本作こそが作品賞に収まりが良かったのではないだろうか。

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ドリームのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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