映画『婚約者の友人』レビュー

愛しちゃったのよ

 日本に紹介された当初は、キワモノ的な才人扱いの印象だったが、受け入れ難い現実と格闘する熟年女性の胸中を奥底まで覗き込む『まぼろし』(01)で、名実ともに実力派監督へと躍り出たフランソワ・オゾン。客観から主観の世界へと、観る者を無意識のうちに誘う『スイミング・プール』(03)など、巧みなストーリーテリングでも知られる鬼才が、第一次世界大戦直後のドイツとフランスを舞台に、ひととして間違っていたとしても、どうにもできない恋心のゆくえを丹念に追う中で、あらゆるジャンルを網羅しながら逸脱していく、ユニークな趣の意欲作である。

 フランスとの戦闘で婚約者フランツ(=原題)を亡くしたドイツ人のアンナは、その墓前で涙するフランス人のアドリアンと出逢う。同い年のフランツと意気投合し、パリでの思い出話を懐かしそうに語るアドリアンに、急激に惹かれていくアンナだったが、どこか物憂げな彼には、胸が張り裂けそうな秘密があった。

 アドリアンの誠実な語りを具現化した、まばゆいばかりの理想の情景と、戦争の愚かさや虚しさを容赦なく物語る、残酷な現実。『戦場のピアニスト』(02)でも馴染み深い、ショパンのノクターンの悲しくも美しい旋律を効果的に用い、想像力をかき立てられる陰影に富むモノクロをベースに、温かみを帯びたカラーの映像が、ふとした瞬間に挿み込まれる。相互の美点を引き立てつつ、両者の間を自然に行き交うカメラによって、遺されたものを傷つけるだけの事実よりも、大切な存在を想うがゆえの優しい嘘が勝利してしまうという、絶望と希望が激しくせめぎ合う様が映し出される。そこには、芸術家=壮大なホラ吹きを自認するオゾンの、映画作家としての揺るぎない矜持がにじむ。

 生と死が平然と共存するエンディング。マネの絵画を前に、アンナが言い放つ一言は、あっけない死がありふれている今、説得力をもってグサリと響く。

 

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婚約者の友人のポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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