映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』レビュー

正統継承者

ヨン・サンホ監督は“ゾンビは社会を映す鏡”というロメロ御大のイズムを的確に継承している。
ソウル発釜山行きの特急列車内でゾンビ禍が発生するというゾンビ映画史上類を見ないセンス・オブ・ワンダーが象徴するのはソウルを背中合わせにし、今なお緊張が高まり続ける北朝鮮情勢に他ならない。一度、軍事衝突が起こればソウルが火の海と化す事は既に各方面で検証されており、ゾンビパニック後の市街のカタストロフは当事国ならではの切迫感がある。ゾンビが走る事はもちろん、時速300キロ超の特急KTXが象徴するのは電光石火で半島を火に染める北朝鮮への恐怖なのだ。

さらに見落としてはならないのがゾンビのスピードよりも、この状況下における人々の反応だろう。
中盤、ゾンビで溢れ返った後部車両から生存者を救出したものの、前部車両の人々は「こっちへ来るな」と拒絶する。北朝鮮人民が38度線を越えて自国へ流入する事の嫌悪感と差別意識。それを先導するのが企業重役という部分にも、サムスンはじめ財閥の寡占と腐敗の続く、まさに特急列車の如く発展した韓国資本主義への批評がある。我が子を顧みない主人公はファンドマネージャーであるために何度となく蔑まされるが(対照的に胸のすくような好漢マ・ドンソク)、リーマンショック以後、ファンドマネージャーが嫌われるのは今や万国共通認識だ。

本作は2016年のサマーシーズンに韓国で記録的大ヒットとなった。同時期公開が『コクソン』というのだから、いやはや韓国映画ファンの胆力たるや。韓国に留まらず、世界の不安を捉えた正統の“ロメロイズム”が海を越え、世界規模で大ヒットしたのは当然の結果だろう。

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新感染 ファイナル・エクスプレスのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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