映画『エル ELLE』レビュー

あたし、嘘つくのやめたから

冒頭、いきなりイザベル・ユペール扮するミシェルがレイプされる場面から映画は始まる。ところが事が終り、犯人が去ると彼女は何でもない事のように部屋を片付け、服を着替えて寿司の出前を注文する。今日は息子がディナーを食べにくる日だ。

ミシェルは何事もなかったように会社へ出勤する。彼女は人気エロゲー製作会社の社長だ。その合間にも昨日の事が頭をよぎる。落ちていた灰皿でレイプ犯の顔をしたたかに殴りつけてやれば良かった。ぐちゃぐちゃになるまで。友人とディナーへ行った彼女はあっけらかんと話す「あたし、昨日レイプされたから」

信じがたい事にバーホーベンはブラックコメディとして演出している。このレビューを読む限りでは全く想像がつかないと思うが、吹き出してしまうような場面が何度も出てくる。彼の意図を汲んだユペールはあらゆる間合いを決める完ぺきな演技で観客の度肝を抜き、魅了し、思いもよらない笑いを呼ぶ。その膨大なフィルモグラフィにおいて数々の難物監督を攻略してきた彼女だ。バーホーベンはむしろ気のおけない共犯者に過ぎないのだろう。

彼女は「あたし、嘘つくのやめたから」と言い放つ。
建前とか、気遣いとか、遠慮がなんだ。あたしは10歳で親父の大量殺人の片棒を担がされたんだ。レイプこそされなくても、唾を吐きかけられ、殴られ、侮蔑されて生きてきた。
でも、そんな事をするのは決まって関係のない奴らだ。他人の不倫スキャンダルや出自をネタに火を放ち、炎上するのを楽しむような奴らだ。

あのレイプ犯もそうだ。
映画の途中で明らかになるレイプ犯はまるで彼女を罰するかのように犯すゲス野郎だ。社会的な地位を隠れ蓑にする奴の化けの皮をミシェルは一枚一枚はがし、ついには正義の鉄槌を下すのである。

世の中、ゲスな野郎が増え過ぎた。“彼女”にぶん殴られるべきゲスがどうにも多すぎるのである。バーホーベンは黙っちゃいない。

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エル ELLEのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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