映画『月と雷』レビュー

家族の予感

 一筋縄ではいかぬ女性の業をもあぶり出す『八日目の蝉』(11)『紙の月』(14)など映画化作品が相次ぐ角田光代と、『blue』(03)『海を感じる時』(14)など、女性の生理を真摯に見つめる秀作を世に送り出す安藤尋監督とのコラボレーションが実現した注目作である。

 父を亡くして以来、その気配を感じながら、ひとりで住むにはあまりに広い片田舎の一軒家で、ひっそり暮らしてきた泰子(初音映莉子)。もう若くはない年齢となり、人は好いがときめきも感じない、職場で知り合った男性で手を打とうと結婚を意識する中、幼少の頃に半年ほど生活を共にした、父の愛人・直子(草刈民代)の息子・智(高良健吾)との久方ぶりの再会に、平穏だったはずの日常がかき乱されていく。

 『彼女の人生は間違いじゃない』(17)に続き、年頃の女性の心の隙間を艶めかしく満たす人たらし(人でなし?)を、飄々と好演する高良。女優としてはネックにもなっていたバレリーナとしての超然たる存在感を、独特の役柄を得て初めて活かし切った草刈。そんな彼らに振り回されつつ、本当の幸せとは何かを模索し始めるヒロインの葛藤を、終始不機嫌顔ながら細やかに演じた初音。現実と幻想との狭間を、長廻しにより悠然と飛び越える安藤監督の、役者への信頼感に見事に応えて見せる。

 家族とは、去っていくもの。非情な現実を、諦観にも似た境地で、後ろ向きに受け止めてきた泰子。直子親子と入れ替わるように家を出て、生活感ゼロのセレブに生まれ変わっていた実母と、優しい男性らの間を流浪するがごとく、そんな人生を自ら選び取っている直子。貪欲に生き抜く母親失格の彼女らを目の当たりにし、家族とは”予感”に過ぎず、永遠に捉えきれない夢のようなものと認識を新たにした彼女は、図太く変貌していく。

 他人の過ちに対し、過剰なまでに反応する昨今、”普通”とは何かを静かに問う意欲作だ。

 

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月と雷のポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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