映画『わたしたち』レビュー

いじめられっ子、世にはばたく

 鬼ごっこ、缶けり、花いちもんめ……子どもの遊びは、とかく底意地が悪い。劇中で象徴的に描かれるドッジボールも、狭いコート内で、生きるか死ぬかの”仁義なき戦い”が繰り広げられる。人生のえげつない前座を経て、大人の世界を垣間見る子どもたちは、社会を生き抜く術を学び取っていく。

 10歳の少女ソンには、友だちがいない。ドッジボールのチーム分けでは、最後まで取り残されるのが常であるし、クラスメートの誕生会に誘われ有頂天になるも、思いもよらぬ肩透かしを喰らう。夏休みの予定も真っ白けの終業式の日、どこか垢抜けた風の転校生ジアに出逢い、裕福な彼女のさりげない行動の一端に心の闇を感じたりしつつも、急速に友情を育んでいく。しかし、新学期を迎えると、ジアのソンに対する態度は一変してしまう。

 言ってはいけないことを、言ってはいけない相手に口走ることで、ふたりの関係はますますこじれていくが、その救世主となるのが、ソンの天真爛漫な弟ユンの存在である。”遊び”と”いじめ”は、紙一重。いつもアザだらけで帰宅するものの、シンプルだが意味深い一言を、あっけらかんとした表情を浮かべながら言い放つユン。将来の大物感を漂わせる愛らしい弟に瞠目させられたソンは、心の声に従い、ある行動に出る。

 不当な嫌がらせを受けることと定義づけするならば、いじめられた経験のない人の方が少ないだろう。傷つくことを恐れ、めそめそと泣き寝入りしていては、本気で遊ぶことも、アクセサリー的ではない本物の友だちをつくることもできない。本作で長篇デビューを飾る韓国の女性監督ユン・ガウンが、オーディションで厳選した、ナチュラルな魅力を放つ原石たちが、周囲を敏感に観察し”演じる”ことが、子どもの日常でもある切ない真実をも、静かに浮かび上がらせる。忘れかけていた過去の痛みを疼かせるとともに、こそばゆくも愛おしい瞬間が甦ってくる佳篇である。

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わたしたちのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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