映画『ありがとう、トニ・エルドマン』レビュー

お~い、やってるか!

日本で紹介される本数のせいもあるだろうが、僕のドイツ映画へ抱くイメージは“質実剛健”“生真面目”だ。そんなドイツからこんな直球の父娘人情ドラマが出てくるなんて!カンヌ映画祭はじめ世界中の映画賞を席巻、大ヒットした万国普遍の人生賛歌だ。

父ヴィンフリートはルーマニア出張中の娘イネスの元を訪れるが、バリバリのキャリアウーマンである彼女は突然やってきた父親が鬱陶しい。無理もない。彼女はおそらく40歳に足をかけている中年で今更、父親にかまわれる年齢ではない。お互い、自立した一個人でなければ困る。そんなイネスは四六時中スマートホンを手放さず、マッサージ屋にクレームをつけ、お詫びの品を待つ間にさっさと次のアポを入れてしまうような人だ。父がこぼした「おまえ、それでも人間か」。

イネスのささくれ立った心はヨーロッパ社会の精神性でもある。石油を求めて多国籍企業が乗り入れるルーマニアだが一度、都市を離れれば水洗便所すらない未開の風景が続く。本作は裕福な国が貧しい国を搾取する姿をイネスの心象として借景している。

そんな娘を慮って、父はルーマニアに留まった。一旦、帰ったと見せかけ、ヨレヨレの長髪ズラと出っ歯でお得意の変装だ。そうです、私がトニ・エルドマンです。

ビジネスシーンの行く先々に現れる父の笑えないイタズラにイネスの顔も凍りつく。この気まずい間合いの笑いがホイットニー・ヒューストンを機にとんでもないギャグへと膨れ上がるクライマックスは爆笑必至だ。2時間40分もかける生真面目な本作のテーマは単純明快。「おーい、笑ってるか!」

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ありがとう、トニ・エルドマンのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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