映画『パターソン』レビュー

時間よ止まれ

 映画から”詩”が失われつつある今、還暦過ぎても飄々と我が道を行き、ありふれた人たちの営みのかけがえのない瞬間を、いとおしむように掬いとり続けるジム・ジャームッシュの存在は、頼もしい希望である。

 そんな彼の最強の武器のカメラをペンに持ち替え、生まれ育った小さな街と同じ名をもつユニークな宿命と闘いつつ、詩的な体験を秘密のノートにしたためる分身のような人物が、主人公のパターソン。バスの運転手として規則正しい日常を過ごす傍ら、微妙に趣を変える窓外の景色や、乗客らの他愛のない話からもインスピレーションを得て、生まれては消えていく世界の在りようを、詩という形で繋ぎ止めようとする。

 モノトーンかつ独創的なデザインで家中を飾り、変化の乏しい毎日に何らかのサプライズをもたらす夢見がちな妻も、平穏を好む詩人の卵に刺激的なひらめきを与える。一番のファンであり、作品のコピーをとるよう懸命に勧める妻の言葉を、何度となく聞き流してきたパターソン。原本のみに備わる大切な何かが失われることへの危惧ゆえか、手書きにこだわる彼の”意図的な過ち”が、ある事件に発展する。

 傷心のパターソンと、『ミステリー・トレイン』(89)以来のジャームッシュ作品となる永瀬正敏ふんする旅する詩人との出逢い。翻訳のジレンマから、空白に宿る表現の可能性まで、滋味豊かな会話に耳を傾けていると、そのまま話題を映画に置き換えたい衝動に駆られる。

 カメラが捉えた儚い輝きを、時空を超え幾度も味わう。そんな映画の醍醐味を全身全霊で体現するのが、愛らしくも絶大な存在感で魅了する、パターソンの愛犬マーヴィン。演じるブルドッグのネリーは、カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞受賞の吉報も知らぬまま、天に召された。彼女(男の子役だが、実は女の子)との想い出に捧げられるエンドクレジットが、小さな奇跡に彩られた本作を、切なく締めくくっている。

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パターソンのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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