映画『ウィッチ』レビュー

魔女の歌

サンダンス映画祭で脚本賞と監督賞を受賞した本作はとても初監督作とは思えない、風格すら漂うゴシックホラーだ。一級の美術、衣装のプロダクションデザイン、自然光を主に撮影された絵画のような撮影(夜間の室内撮影はろうそくの灯だけで撮っているように見える)は低予算であることを微塵も感じさせない。特筆すべきはドゥニ・ヴィルヌーヴ同様、このロバート・エガース監督の耳の良さで、徹底して設計された音響設定、スコアは見る者を震え上がらせるだろう。また映画の統一されたルックもさることながら、登場人物たった6人で展開する密室劇の緊迫と、それをリードする子役らの演技力は戦慄を呼び、すでに作家として完成された驚異的演出力だ。

一家は次々と襲い来る怪異に次第に狂気の淵へと追いやられていく。果たして彼らは何に怯えているのか?1630年といえば魔女狩りの時代である。厚すぎる信仰心と無知はヒステリーによって悪意へと姿を変え、人ならざる凶行へと追いやっていく。このヒステリックな空気は今もなお変わっていないのではないか。

一方で本作は少女の目覚めの物語とも見て取れる。
終盤の“ある人物”の囁きは今を生きる僕達からすれば何でもない事だが、虐げられ、鬱屈した時代の少女からすればこれ以上ない誘惑だ。少女とも女とも見える童女アニヤ・テイラー=ジョイの登場は重要だ。禁欲的な衣装から覗く白い胸元。“魔女”を騙って生意気な弟たちをこらしめれば、そこには彼女の抱える底知れない欲求が吹き出ている。彼女の喜びに満ちた飛翔の蠱惑は副題“A New-England Folktale”と結びつき、この幻想性は本作に単なるホラー映画以上の魅力を持たせるのである。
そしてこの物語を2015年に語る本作は、いよいよ興盛するネオウーマンリヴ映画の潮流にも位置すると見ていいだろう。

10
ウィッチのポスター
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0
長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

映画『ウィッチ』に対する長内那由多さんのレビューにコメントする

アカデミー賞2017

こんな作品もレビューされてます

婚約者の友人のポスター

愛しちゃったのよ

  日本に紹介された当初は、キワモノ的な才人扱いの印象だっ...

エイリアン コヴェナントのポスター

創られし者、創りし者

 中盤のドス黒い、邪悪な気配は何なのだ。 新型エイリアン“ネ...

ダンケルクのポスター

ダンケルクスピリット

 巻頭の銃声をきっかけに、クリストファー・ノーラン監督は観...