映画『空と風と星の詩人 尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯』レビュー

恥の美学

 戦争は、心身にとって大切なものを狂わせ、破壊し、奪い去る。朝鮮が日本の支配下に置かれる中で幾篇もの詩をしたためるも、第二次大戦終戦を迎えられぬまま、27歳で夭折した尹東柱(ユン・ドンジュ)の短くも濃密な青春は、不穏な空気漂う現代においても、崇高なきらめきを放つ。

 東柱は、同い年のいとこの宋夢奎(ソン・モンギュ)と兄弟同然に育ち、表面的には、常に一歩先を行く彼の影のような存在にも映ったが、物静かな同胞の詩の才能を誰よりも認めていたのも、夢奎だった。祖国を想い、水面下で様々な動きを見せる革命家気質の彼は、東柱を守るべく次第に距離を置くが、時期を同じく治安維持法違反の疑いで留学先の京都で逮捕され、ともに福岡刑務所に収監されてしまう。

 生きることは、恥をかき続けること。そんな人生観めいたものが、東柱にはあったようだ。彼は、詩作を通して自身の脆さや恥部とも真摯に向き合い、母語の朝鮮語で誠実に綴り明かした。そのくせ、感銘を受けた人たちから”詩人”などと評価されると、居心地悪そうにはにかんだ表情を浮かべる。そういった彼の恥への潔癖なまでの態度は、戦争の最も重い罪のひとつ――尊厳の略奪――に対し、それだけは懸命に守り抜こうとする、彼なりの闘争心の現れではなかったか。理不尽な取り調べの際に見せる予期せぬ抵抗にも、意外に頑固な彼の美学が貫かれ、激しく胸締めつけられる。

 『王の男』(05)などのヒットメイカーであり、実際の幼女暴行事件に基づく『ソウォン/願い』(13)では、ショッキングな題材ながら、対象との繊細な間合いを見極める手腕を発揮したイ・ジュニク監督。時代へのネガティブな感傷は排し、むしろ逆風をバネに、自由や希望を求めて創作を続けた彼が遺した詩の数々を、心境に沿う形で絶妙に挿み込む。柔らかなモノクロの映像が、色褪せない尹東柱の詩の世界を今に伝える、静かな力作である。

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空と風と星の詩人 尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯のポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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