映画『メッセージ』レビュー

ヘプタポッドよ、舞い降りて!

監督のドゥニ・ヴィルヌーヴは日常に宇宙人という非日常が入り込んでくる気配を濃密に描出し、僕たちを引き込む。前作『ボーダーライン』でも好投したヨハン・ヨハンソンのスコアがここでも快楽的なストレスを課し、やがてそれは宇宙人の登場によって不可思議な、現代音楽のような効果音にすり替わっていく。人間が楽器で吹けそうなこの奇妙な音との遭遇は、ぜひとも音の良い映画館で体験してほしい。独創的なプロダクションデザインもさることながら、観客を音で物語世界にひきつける耳の良さもヴィルヌーヴの持ち味だ。

テッド・チャンの独創的な原作小説は観客の知性とハートを刺激する全く未知の物語だ。言語の違う他者の言葉、文法を学ぶ事は相手の考えに近づき、理解する事である。ルイーズは宇宙人ヘプタポッドの円環象形文字を解析していく中で彼らが過去、現在、未来の時制を持たず、時間を超越した存在であることに気づいていく。ヘプタポッドを巡って緊張を高めていく各国に彼女がもたらす調和こそ、この丸い地球に欠けているものだ。相互理解と、団結。僕たちは今、ヘプタポッドの到来を必要としているのかもしれない。

だが『メッセージ』の魅力はこれに留まらない。誰もの心の訴える普遍的テーマに、まさに円を描くように帰結していく。
僕は妻と、彼女との未来を想いながらこの映画を見ていた。
時たま思う。妻が何か病気や、事故でこの世からいなくなってしまったら、僕はどんなに深く悲しむだろうかと。
あるいはこれから子供が生まれた時、その子が生きるには困難なほどの障害を抱えてしまったらどうしようかと。
いや、それ以前に別離はもっと単純に、2人の人間が行き着く不和として訪れるかも知れない。
いずれにしても、人間には「死」という終わりがやってくる。それがわかっていても、人はつながる事をやめるわけにはいかないのだ。

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メッセージのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」にハマり、ジュリー・デルピーに恋をする。日記代わりにB5ノートに書き始めた手書きの映画レビューもすでに16年目。上手に書けたらアップさせて下さい。

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