映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』レビュー

マンチェスター叙景

北国育ちの人ならマンチェスター・バイ・ザ・シーの冬の寒さは身に沁みてわかるだろう。低い雲がたちこめる曇天が続き、春が来たと思えばまた雪が降ったりする。長く、過酷な季節だ。マンチェスターへと帰郷したリーの脳裏によぎる、過去の凄惨な事件。ロナーガンは安易な癒しも救済も持ち込まず、人生の長く険しい冬を迎えてしまった人間をじっくりと描いていく。
対照的に描かれるのが兄の遺児、パトリックだ。16歳の高校生である彼は友達に囲まれ、アイスホッケーと(下手くそな)バンドを楽しみ、二股交際中のカノジョとエッチする事しか考えていない。まさに人生の春を謳歌している最中だ。そんな彼の後見人をリーは託されてしまう。人生に絶望した弟へ我が子を託した兄の遺志には、人と人とが一緒に寄り添う事で幸せになれるのだという深い愛情が伺える。

リー役ケイシー・アフレックはアカデミー賞はじめ数々の賞を独占した。しばしば大芝居の熱演がもてはやされてきたハリウッドにおいて、ようやく静かな内面演技が勝利したように見えるが、そもそもアクターズスタジオによってもたらされたこのメソッド演技こそが、ニューシネマ以後のアメリカ映画を形成してきたのではなかったのか。

彼の妻を演じたミシェル・ウィリアムズもアカデミー賞にノミネートされた。短い出番ながら彼女の“ハート・ブロークン”なシーンは本作のクライマックスだ。彼女がとっさに口に出す「死なないで」という言葉に、かつて愛する者(ヒース・レジャー)を失った哀しみを知る彼女でしか出せない真実を見た気がするのはうがち過ぎか。何とも業の深い芝居である。

長く寒い冬を人はそれでも静かに耐え忍ばなくてはいけない。春は未だ遠い。それでも人生は続く。

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マンチェスター・バイ・ザ・シーのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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