映画『心に吹く風』レビュー

されど、初恋

 「冬のソナタ」(02)などの”四季シリーズ”で、空前の韓流ブームを巻き起こしたTV界のヒットメイカーのユン・ソクホが、日本映画で劇場用監督デビューを果たす、ユニークな成り立ちの注目作である。

 撮影のために北海道の富良野を訪ねたビデオアーティストは、偶然立ち寄った家で、高校時代に付き合っていた女性と20数年ぶりに再会する。子育ても一段落し、日々の生活に虚しさを覚え始めていた彼女と、仕事で各地を飛び回る中で気づけば未だ独身の彼は、撮影と称して互いのお気に入りの場所を巡るうちに、過ぎ去った時間を急速に巻き戻していく。

 予期せぬ訪問者に心揺れる人妻を演じるのは、山崎まさよしの主題歌とともに今なお愛される『月とキャベツ』(96)で、彼岸と此岸の狭間をたゆたうような幻想的なヒロイン・ヒバナ役で鮮烈な印象を残した真田麻垂美。映画出演は16年ぶりとのことで、彼女の初登場シーンは、運命のいたずらで初恋の相手に再会してしまった四十路男の胸のときめきと、ヒバナの”その後”に深い感慨に浸る映画ファン心理とが相まって、曰く言い難い情感に包まれる。

 シリーズ第1作「秋の童話」(00)での名言”(生まれ変わったら)私は木になりたい”にも象徴されるように、ユン・ソクホ監督にとって、人間は自然の一部であり、恋愛感情も然り。自然の摂理である恋が成就するか否かに価値を置かない彼の辞書に、”失恋”はない。なかでも別格上位に君臨する”初恋”に胸躍らせ、苦しめられもする男女を好んで描いてきたベテラン監督は、今回も、名カメラマン高間賢治のサポートを得ながら、偶然の自然美の数々の中に、年齢を重ねても恋する気持ちを抑えられないカップルの心の機微を丹念に掬い取る。

 ぶっちゃけ、不倫ものではあるが、修羅場も愁嘆場もない。引用される『髪結いの亭主』(90)が絶妙な伏線となる、つつましくも美しい愛の物語だ。

 

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心に吹く風のポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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