映画『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』レビュー

ダメ犬の雄叫び

 非情な殺人鬼から狡猾な詐欺師まで変幻自在にこなし、怪優としてますます磨きのかかるハ・ジョンウが、ごく平凡な”ええ奴”を好演するという意味でも新鮮な快作である。

 前作『最後まで行く』(14)でも、とことんツキに見放された男の顛末を、ブラックなユーモアをたたえつつ、粘着質なまでに見届けたキム・ソンフン監督。今回も、愛娘の誕生日に大口の契約をものにした自動車のディーラーが、有頂天になっているのも束の間、極めて交通量の少ないトンネルでの崩落事故に巻き込まれ、一刻の猶予を争う危機的状況にも関わらず次々とトラブルに見舞われる様を、意地悪いほど克明に追い続ける。

 そんな不運な男の出口の見えない持久戦の、頼もしい連れ合いとなるのが、一匹のパグ犬。真っ暗闇でも十分に感知し得る荒い鼻息に、つぶらな瞳を光らせ、たるみ加減の脂肪内に生命力を蓄える彼の超マイペースな振る舞いに、時に追い詰められ、癒されもする。貴重な食糧となるドッグフードを分け合うシーンなどでは、ハ・ジョンウがパグ犬の愛らしさを際立たせるとともに、そのナチュラルなリアクションが、韓国の演技派の素の人柄の良さのようなものまでをも引き出している。

 そして、様々な理由で吠えることを躊躇してきたパグ犬が本能に目覚め、精一杯の雄叫びをあげるシーンでは、ダメ犬が束の間見せるヒロイックな男気に、かの「アルプスの少女ハイジ」(74)における“クララが立った!!”並みのカタルシスが生まれる。

 夫を一途に愛するあまり、吹き荒れる逆風にもまれて苦渋の選択を迫られる人妻を、母親である以前にひとりの女性として演じ切ったペ・ドゥナ、公的なルールよりも自らの良心に忠実であろうとする救助隊隊長を好演するオ・ダルスら、キャストも充実。オーソドックスなパニックものに、変化球なバディ・ムービーの趣向も添えた、エンターテインメント性溢れる逸品となった。

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トンネル 闇に鎖(とざ)された男のポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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