映画『メッセージ』レビュー

“いま”を生きる

 未知なるものを恐れ、排除し、攻撃する。何かと物騒で、不穏な気配が漂う昨今、SFという設定を借りて、ヒトを人間たらしめている寛容の心を取り戻す意義を、静かに、かつ、力強く謳い上げる傑作だ。
 ある日、地球各地に、卵型の飛行物体が出現する。女性言語学者のルイーズは、謎の生命体の真意を探るべく、国家から協力を求められる。7本脚をもつことから”ヘプタポッド”と名付けられた彼らと意思疎通を図るべく、試行錯誤を繰り返す中、なぜか亡き愛娘との想い出の数々が、アトランダムに彼女の脳裏をよぎる。
 ひょろ長い脚から繰り出される、現代アートと水墨画を混ぜ合わせたような表意文字を解読するうちに、時間という概念をもたない彼らの思考回路をも習得していくルイーズ。そんな人知を超えた体験が、ヘプタポッドの温かな内面の一端をユニークな文字でビジュアル化し、日に日に鮮明になる娘との記憶に苦悩しつつ慰められもする複雑な親心を繊細な編集で映し出すことで、観る者にも共有されるのである。
 幾多の言語学的アプローチを経たルイーズが、徐々にではあるが着実に親愛の情を育む一方、長引く膠着状態に伴い、各国家間の足並みは乱れ、遂には核攻撃を仕掛けようとする国まで現れてしまう。
 一触即発の危機が迫る中、彼らが本当に伝えたかったこと。人間として不可避の限界を否応なく突きつけるとともに、それゆえに、目の前の物事や人たちと真摯に向き合い、日々を精一杯生きることの大切さを感じ取ったルイーズは、悲しくも勇気溢れる道を自ら選ぶ。理系な印象を与えるテッド・チャンによる原作「あなたの人生の物語」を文学的に紐解き、かすかな希望へと扉を開いて、見事に映像化してみせたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。10月公開予定の『ブレードランナー 2049』にも、期待が高まる。

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メッセージのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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