映画『ぼくと魔法の言葉たち』レビュー

ハッピーエンドの先に

 驚異の実話の映画化が相次いでいる。その多くが、実在の人物への配慮もあってか、事実をなぞるのに終始し、それ以上の感慨を得られないのに対し、突然悲劇的な困難に直面するも、それを奇跡的に乗り越えたある家族の軌跡を、観客にも追体験できるような形でヴィヴィッドに描く、珠玉のドキュメンタリーである。
 2歳で自閉症を発症して以来、言葉を失ったサスカインド家の次男オーウェンは、大好きなディズニー・アニメーションを繰り返し観るうちに、完全にマスターした台詞を通して、次第に言葉を取り戻していく。かなり特殊なケースにも思われるが、アカデミー賞にもノミネートされた本作は、それを決して奇跡とは捉えずに、息子のわずかな変化も見逃さなかった両親や、弟想いで責任感の強い2歳年上の長男ウォルトの、惜しみない愛情の賜物であることを、貴重なホームビデオの映像なども交えつつ、感動的に映し出す。
 ディズニー・マニアのオーウェンのお気に入りは、中心を担う主人公よりも、その冒険を様々な形で盛り立てる、個性溢れる脇役たち。社会の中では、人それぞれに役割があり、皆違って皆いいことを、自ずと学びとっていく。
 しかし、大学を卒業して親元を離れることになった彼は、アニメーションの世界観だけでは不十分であることをも、身をもって知ることになる。最愛のガールフレンドとの関係は、一進一退を続けるばかり。ディズニーにも、おとぎ話の”めでたしめでたし”のその後を描く『イントゥ・ザ・ウッズ』(14)なんて変化球な作品もあったが、立ちはだかる現実の壁を前に、別の道を模索しようと手を差し伸べるのが、ちょこっと人生の先輩のウォルト。いつまでも生きてはいられない両親は、息子の将来への不安をカメラの前で正直に吐露するが、頼れる兄貴の存在は、希望の光だ。この固い絆は、野原しんのすけ&ひまわりの兄妹愛を彷彿とさせた。

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ぼくと魔法の言葉たちのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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