映画『ヒトラーの忘れもの』レビュー

デンマークの白砂

ヨーロッパで難民の排斥が叫ばれ、アメリカでイスラム圏の入国禁止処置が進む今、一体この憎しみの奔流はどこから来ているのかと途方に暮れてしまう。辿れば根源はテロなのだろうが、果たして僕らが憎んでいるのはその行いなのか、人種や国籍なのか。マーチン・ピータ・サントリフ監督による本作は観客に自問を促す力作だ。この今日性が高く評価され、アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされた。

1945年5月、ナチスの占領から解放されたデンマークだが、海岸線にはドイツ軍によって埋設された200万個にも及ぶ地雷が取り残されてしまった。デンマーク軍はこの撤去を敗残したドイツ軍、それも少年兵達に行わせていたのだという。
冒頭、ロクな教育もないままに繰り広げられる選抜テストから106分間、画面には常に地雷が映され、いつ爆発するとも知れない神経衰弱ギリギリの圧迫感が観客を容赦なく追い詰め、デンマークの“報復”の残虐さを思い知らされる事となる。食事も満足に与えられず、少年達は手作業で地雷を掘り当てていったのだ。この過酷さとは対照的な白砂のビーチの美しさが、誰にも知られる事なく散っていった少年達の無念を際立たせる。世界から隔絶されたかのようなこの場所で、彼らはどんな絶望を味わったのか。

少年達はおそらく大戦末期の学徒動員兵であり、実戦経験も乏しく、まさに子供である。彼らは一様に戦後の目標を語り、祖国の復興を夢見る。そんな彼らの姿を見て監督役であるデンマーク人の鬼軍曹も態度を軟化させていく。最後に彼の取った行動は、僕らに絶望的な状況でもか細く保たれる人間の善意の在処を知らせるのである。

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ヒトラーの忘れもののポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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