ムーンライト

2017年春
ムーンライトのポスター
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どんな映画

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フリークレビュー
9

小さな世界に、全てがある。

散り気味の光の中、くすんだライトブルーの車。夢の中、海辺にさまよい出る背中越しのカメラワーク。演出を的確に捉える見事な撮影は全て「あの頃見た光景」を作る。幼い頃に覚えた無力さは、そのときに自分を取り巻いていた光景と結びついて心に刻まれる。そんな光景を、誠意とともに丁寧に撮りあげる。

散らかって水垢と錆だらけの洗面棚、ゴミと混ざって床に積もる洗濯物、不安に散らかった本人の心のよう。一方で、月の光に照らされる肌も目も、繊細で美しく、けれどその美しさに本人が気づくことは無い。背中越しショットは、観客を本人に没入させながら、本人が気づかない本人自身の美しさを、観客に届ける。その周到さ。

肌を合わせて水に慣れる、泳ぎを覚える、取っ組み合って転がる、赦しあって抱き合う、メシを出す、メシを食う。凄惨な中に、心をほどく官能がある。それは「ちょっとでも生きよう」と日々をつながせる微かな希望。抑制された演出が、撮影の美しさ、演技の強度を際立てる。

貧困・麻薬・犯罪…日本人には縁遠く見える世界から、確実に心に届く「感覚」。「こうあるべき」と抑圧をかけてくる社会や環境に、若い自分はあまりに無力で、成長して知恵をつけ、どんなに鎧おうとも、無力感は変わらない。いつだって誰だって、そのままの自分を受け入れてくれる誰かを探しているのだ。

ダイナーからアパートへ、他愛ない会話の中に緊張感が満ちる。「壊れないでくれ」という切実な願い。傍にいる友達、恋人、パートナー、家族、失ったときに初めてその尊さが判る。描かれる世界は小さいけれど、人生で大事な感覚と感情の全てがそろっている。

大きさも野望もなく、ただ真摯に作られた映画だと思う。それが遠くにいるおれたちの感覚を射抜いたわけで、その力に感嘆するのだ。

Daisuke O-oka
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VTRディレクター

『ムーンライト』のカラーレビュー

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アカデミー賞2017

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