あん

2015年05月30日公開
あんのポスター
8.5

どんな映画

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フリークレビュー
10

丸い神話。

このレビューにはネタバレが含まれています。

桜、月、木々、光、全てが鮮やかで生命に満ちていて美しい。一方で街や道は固く重くくすむ。緻密な撮影。人々が往く場所は「囲いの中」。少し視線を上げた空間は「囲いの外」。誰もが何かに囚われていて「ここから出たい」と思うときに、少し視線を上げるのだ。

徳江(樹木希林)も千太郎(永瀬正敏)も、それぞれに「囚われた人」。千太郎は度重なる悲しさにやられ「一歩出る」ということさえ思いつかない。そんな千太郎を徳江に会いに行こうと促すのはワカナ(内田伽羅)の素直さだ。

そのワカナの素直さと、千太郎のどら焼き屋に押しかけた徳江の素直さが、通じている。人生の最終盤で本当にやりたいことに踏み出す。その「軽さ」に感嘆する。「(時給)200円でもいいの」とまで言う徳江が少女のようで可笑しいほどだ。

その軽さも、千太郎を一々揺らがせる柔らかい言葉も「囲いの中の人生」が基にある。それは徳江が生来持つ性質なのか。過酷な人生を経たからこそ身につけられた「徳」なのか。目の前にいる人物からでもなかなか感じとれない「人生」が、役者・樹木樹林+役・徳江という化学反応で放射される。これぞ映画の醍醐味。

どら焼きは徳江なのだ。甘くほっこりした美味しさは、徳江の佇まい。長年の経験で得た丁寧な仕込は、徳江の人生。

徳江を「守れなかった」と千太郎は慟哭する。囚われているから守れない。相手の唯一、自分の無力、双方に同時に気づく衝撃は測り知れない。固陋な社会に忌まれる病も、自身の未熟も、望まず得てしまった枷。その枷さえも、真摯で素直な魂が輝きに変えていく。

カナリア、月、桜が象徴となり、小さな人間達の物語を、神話にも通じる大きな普遍に引き上げる。終盤、徳江から受け継いだどら焼きを出し、思い切って第一声を上げる「一歩出る」千太郎の腹の震えを、おれはそのまま劇場の座席で共有した。

満月がまるでどら焼きなのだ。丸い神話だ。

Daisuke O-oka
Daisuke O-okaのプロフィール画像
VTRディレクター

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