フリークレビュー
9

だからウェス・アンダーソンは愛される

今回もいつものウェス・アンダーソン世界だ。凝りに凝ったデザイン、シンメトリーな画面構成、高速パンするカメラ、チャプター分けされた物語、オールスターキャスト、感情の希薄な台詞まわし等々。期待したとおりの世界が面前に広がる。

予想を裏切る驚きも、教訓となるメッセージもない。なのになぜ、ウェス・アンダーソンの映画はこんなにまで愛されるのか。

前作「ムーンライズ・キングダム」はウェスの代表作といっていい快作だった。独特の世界観と物語がきれいにシンクロした前作は、“こどもたちの感受性”という主題をおとなたちが全力のイマジネーションで描き出すという行為自体が美しく、失ったこども心に対する憧れを隠さない一方で、一流の技術と経験値でおとな力を見せつけるそのギャップもまた何とも魅力的に映った。

そして今回。スタイルは同じでも、題材は前作と180度違う。劇中で殺人事件が起きる。血も出るし女性の裸も映るし、果ては生首まで飛び出す。すると今度は、おとなの世界を茶目っ気たっぷりに遊びたおす無邪気なこどもらしさが顔を出す。

いつもと同じはずなのに、題材が違うだけで受ける印象はまるで違う。でも、彼の世界が好まれる理由はたぶん変わらない。こども世界を全力のおとな力で描くことも、おとな世界をありったけのこどもらしさで遊ぶことも、それはすなわち“最高の贅沢”だ。誤解を恐れずに言えば、ウェスの映画とはおそろしく贅を尽くした無駄であり、劇中で言うところの“ル・パナシュ”(香水)に他ならない。

論じ詰めれば、そもそも映画自体が贅そのものであるわけだ。人々の余暇を楽しい気分で埋めてみたり、空想や夢の世界をかたちにしてみたり、明日への一歩をほんのちょっと後押ししたり。そんな映画のあり方を体現するのがウェスの世界であり、だからこそ映画ファンは本能的にそれを愛してしまうんじゃないだろうか。

芳賀 健
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映画ライター・編集
8

好奇心も才能。

このレビューにはネタバレが含まれています。

冒頭からイカしてる。文学少女が作家の墓地を訪れ、彼の遺作を読む。その表紙が映画のタイトルなのだ。ある意味この少女がウェスであり、観客でもある。架空の東欧某国・大戦前夜が舞台になる物語は、隠然と貴族社会が息づき、文学と芸術が寵愛されていた時代を背景にしている。現実世界でも、東欧(すなわち旧共産圏)は地政学的な閉鎖性の中で、独自の感性を育み、デザインや表現に反映させてきた。それがウェス本人の感性と共鳴して生まれる世界。極彩色ながら曇り空の下でしか映えない陰影を備えている。

ホテルの伝説的コンシェルジュ、グスタフ・H(レイフ・ファインズ)を始めとして、ロビー係のゼロ(トニー・レヴォロリ)以下、ほとんど全ての登場人物が「孤独」だ。だからこその「自由」と「責任」を意識している。反射的に取られる全ての行動に葛藤や迷いが無い。動かぬカメラの中を真横に、奥から手前に、手前から奥に疾走する彼らの動きは、背景となる世界と相まって滑稽に映るが、その滑稽さを裏付けているのが「今を切り抜けねばならない真剣さ」であり、孤独ならではの責任感なのだ。

個人的には菓子職人のアガサを演じたシアーシャ・ローナンの可憐さに撃たれまくり。頬に痣を足すという造形もニクい。マダムD家のメイド・クロチルドのレア・セドゥといい、若手女子のキャスティングがいちいちツボ。アガサには「プロイセン風邪」で早くして亡くなるという結末まで用意されていて、時代を背景にした儚さまでが人物造形に供されている。

大戦期を過ぎ廃墟同然となったホテルの造形もまた趣き深い。案内のアルファベットがキッチュに並ぶ中、トラッドを少し着崩した作家紳士(ジュード・ロウ)が老ゼロと語り合うシーンも、またどこかで見た夢のような絵心だ。好奇心の結実としての映画が、観る側の好奇心をも刺激してやまない。ラスト1カットが効く。エンドクレジットと音楽も見ものだ。

Daisuke O-oka
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VTRディレクター
9

会心

「ロイヤル・テネンバウムズ」以来の傑作だと思う。

完山 京洪
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映画人

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