ある過去の行方

2014年04月19日公開
ある過去の行方のポスター
8

どんな映画

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フリークレビュー
10

自分じゃない誰かの責任

空港に降り立った男を出迎える女。隔たる分厚いガラス越しに互いの声は届かず、身ぶり手ぶりで必死に意思の疎通をはかる2人。・・・この記号的なオープニングシークエンスで映画が植え込もうとする情報は、もはや相手の心の内を知ることのできない夫婦の“虚ろな空洞”なのか、あるいは物理的な障害に遮られても意思を確かめ合おうとする彼らの“愛情の残滓”なのか―。

はたまた。母の再婚相手への嫌悪を隠そうとしない娘だが、同じ食卓についた男にティーポットをとってくれと頼まれれば、無造作にそれを差し出してから席を立つ。無視はせず、ポットを渡してから去る。この微妙な対応は何を意味するのか―。

イランの巨匠アスガー・ファルハディの映画は、登場人物の心情をさりげなく伝えるディテール描写に満ちている。上記2シーンは、後に明らかになる真相を知って初めて作り手の真意が伝わる、ある種謎解きのカタルシスを享受する仕組みになっている。

ファルハディ監督が一貫して描くのは、日常に潜む争いの火種と、往々にしてその火種に油を注がずにいられない人間たちの性だ。人間は自己防衛や攻撃欲求、あるいは正義感から物事の責任の所在を明らかにせんとする。夫婦は離婚の責任を相手にもとめ、娘は自らの不遇を母親とその交際相手にもとめる。やがて映画は“ある過去”の責任の所在をめぐって二転三転するのだが、その過程ですべての登場人物が苦しみ、心の平穏を失っていく。

ファルハディ映画における争いの火種は悪意ある加害者が生み出したものではない。ゆえに、火種にせっせと燃料を投下する人間の愚かしさが浮き彫りになる。自分の行動を棚に上げ、他人に責任を転嫁する登場人物たちこそが争いの原因であり、因果応報、彼らは逃れられぬ辛苦に身を落とすことになる。

巧みな語り口とディテールで日常化された凡人たちの争いの姿に、観客はこの世界の争いの縮図を見るのだ。

芳賀 健
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映画ライター・編集
9

ラストシーンの感じ方

前回に続き人物造形が見事。巧い。
誰も良い人で終わらない。

責任転嫁と勘違いや思い込みに面倒くさい正義感を混ぜて
今回もシンプルな日常の中で複雑な人間関係を積み重ねて
ゆっくりとサスペンスフルに浮かび上がらせる。

ヨーロッパの縮図としてどうしても観たくなってしまうほど
小さな痴話喧嘩が客観性を持った普遍的な人間の裏の業を描いている。

重要な事なんだけどオープニングとラストシーンがとても印象的。
オープニングはこの物語の全てを暗示するようで、
ラストシーンの綺麗さは僕には皮肉に映った。

「アーティスト」のベニレス・ベジョが美人だと初めて気づく。

子どもの描き方が相変わらず抜群。

完山 京洪
完山 京洪のプロフィール画像
映画人
7

人間の弱さを集結させ、容赦なく描く。

これは、「別離」の監督の刻印が深く刻まれた一作。
語り口も、目線も、ミステリー仕立ての展開も、大人と子どもの動かし方も、とても似ている。

自分の弱さを誰かに頼る。
その頼られた人が誰ひとり受け止められず、さらに他の誰かに頼り、受け取れてくれなかった無力さを責める…。
人間の弱さのスパイラルだ。
その描き方は、前作同様容赦ない。

それぞれの「最悪の結論」に自分が加担してることを、いったいどれだけ理解しているのか…。
そんなふうに登場人物を責めながら観ている自分に、ハッとする。

一見、美しいラストカット。
決して握り返さない妻の手は、これからずっと背負っていくもの。
恐ろしい。
容赦ない。

茅野 布美恵
茅野 布美恵のプロフィール画像
会社員

『ある過去の行方』のカラーレビュー

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