インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

2014年初夏
インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌のポスター
8.1

どんな映画

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フリークレビュー
10

創造することは美しい

このレビューにはネタバレが含まれています。

類いまれな才能に恵まれながらも時代に埋もれた、女好きでお人好しの憎めない男。これは現代のモーツァルトを描く物語だ。

コーエン兄弟がモーツァルトを念頭に置いていることは明らかだ。冒頭、主人公ルーウィン・デイヴィスが猫のいる家で目覚めると、背後ではモーツァルトが作曲した死者のためのミサ曲(ラクリモーサ)が流れている。また、ルーウィンが遠路はるばる会いに行くプロデューサー役を演じるのは、映画史に残る傑作「アマデウス」でモーツァルトの宿敵サリエリを演じたF・マーリー・エイブラハムだ。

うだつのあがらない主人公が猫とともに過ごす一週間を描く映画は、客観視すれば他愛のない出来事の連なりでしかない。主人公は劇中で重要な転機となる旅路を辿るのだが、最後にはまた一週間前の思考にもどり、繰り返しの日常に身を委ねようとする。

実際、才能に対する評価の分かれ目であったり、人生の成功と挫折の境目というのは、日常のほんの小さなボタンのかけ違いで変化するものなのかもしれない。無益に思える一週間を繰り返すことが、人に定められた運命のようにも思えてくる。

そんなシビアな現実を見せつけながらも、コーエン兄弟はひとつだけたしかな真実を、遠慮がちに、しかし力強く提示する。それは人間が生み出す創造性の偉大さだ。劇中、映画は登場人物たちが創造し、奏でる音楽を、いっさい途中でカットしたりフェードアウトしたりしない。これは、“一音削るだけでも完璧な音楽を台無しにしてしまう”という理由から、モーツァルトの原曲をまったく編集することなく使用した「アマデウス」の信念に通じるものだ。

この映画は、コーエン兄弟が音楽という異なるジャンルの芸術に最大のリスペクトを払いつつ、人間の創造性を無条件で肯定する愛に満ちた応援歌なのだ。

芳賀 健
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映画ライター・編集
9

親近感

カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。

最高峰とも言われるその祭典でこの作品が評価されたのは、
そこにいた数少ない一流のアーティストが、
名も無き数多のアーティストに支えられている、とでも言うような
ただひたすら純粋に芸術を追い求める過去現在の人々に対する
リスペクトをコーエン兄弟が魅せたからのような気がした。

暗い路地に転がされた男の一週間後はまた暗い路地。
この繰り返しが現実。

ひどく癒されたような、救われたような観賞後感。

完山 京洪
完山 京洪のプロフィール画像
映画人
9

猫の目と神の目。

このレビューにはネタバレが含まれています。

フォークのことはよく知らない。けど映画を見ているだけで何となく判ってくるような気がする。ルーウィンの楽曲はイケイケで盛り上がる時代には遅れ気味だ。でも「新しくない、でも古くない、ってことはフォークだ」とうそぶくほどに、彼の歌は染みる。

「オン・ザ・ロード」でタバコをふかしながら車を飛ばしてたギャレット・ヘドランドが、ここでもタバコをふかしながら車を運転してる。実際、フォークとビートニクは同じ年代で勃興し、混ざることさえなかったが各々で影響しあってきた。そこに気づけば、アメリカの戦後文化の香りを楽しめる。実際、時代には余裕があって、上手くやれば誰の家にも車にも居候出来たんだろう。

そして人間たちのみならぬ猫の好演。猫はルーウィンのままならぬ日常の暗喩。ルーウィンの男としてのスタンスが投影されているのは猫で、ルーウィンが車を離れるシーンでの猫の演技は凄い。どこも書いてないので誉めておく。そして猫との干渉が、失った友の曲を歌うことにつながる。

ディランのような宝石は、山のようにいる夢見るクズどもがいるからこそ出てくる。夢への過程が退屈な日常と化すのは寂しさと切なさを伴う。しかしその寂しさも切なさも受け入れていい。そうこの映画は肯定する。

旅の一歩一歩に「ここで人生変わるかも」という緊張感が満ちている。けれど日常は続く。もう一曲だけ多めに唄い、去る暴漢に「あばよ」と声をかける。そこだけが前と違う。違うことがあるなら、それだけ未来に一歩進んでいる。気づかぬうちに日常に戻るのを眺める「神の目」を観客に提供しつつ、意に沿わぬ毎日を過ごしている「と思い込む」男女に送るエールでもある。

デジタル撮影でも敢えてくすんだ色調を選び、一曲鳴らせば必ず最後まで聞かせる。幾度も翻弄される旅路を描き、上映時間は2時間を切っている。要領よく観客を引き込む腕前は見事。豊穣な職人技。優しさが沁みる。

Daisuke O-oka
Daisuke O-okaのプロフィール画像
VTRディレクター

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』のカラーレビュー

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