インポッシブル

2013年06月14日公開
インポッシブルのポスター
8.2

どんな映画

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フリークレビュー
9

なけなしのバッテリーに残るかすかな本能

濁流の中で人はどう揉まれるか、服はどう乱れるか、手足はどう傷つくか、痛みはどう進み、絶望した眼はどう濁るか。
あらゆる局面に想像を巡らせ、津波に呑みこまれた人間たちの様子を見たこともない精緻さで徹底的に描きこんでいけば、そのうち人の気持ちに行き当たり、知る由もなかった当事者の心がひも解かれていく。

作り手に感化されるように、見る者も研ぎ澄まされる。
こめかみを流れる涙が血の跡を溶かして轍を作る様子から、精神的な痛みが次第に肉体の痛みを凌駕していくことについて考える。
映像・美術という表面を彩る技術が、物語の根幹、引いてはこの映画の伝えるメッセージと混じり合って押し寄せ、見る者を呑みこんでいく。

津波前、旅気分に浮かれた身勝手な長男はホテルの冷蔵庫にある缶ソーダを勝手に飲もうとして母親に禁止され、むくれる。しかし津波後のサバイバルの中で瓦礫の下に再び缶ソーダを見つけた長男はそれを飲まず、避難した木の上で負傷した母親に与える。母親はそれを飲み、道すがら助け出した小さな男の子にも分け与える。男の子はお返しに小さな手で母親の腕を撫でる。

少なくとも家族のうち2人の無事がわかっているヘンリーになけなしの携帯電話を差し出した男。男の家族はまだひとりも見つかっていない。にもかかわらず男は、実家を安心させろと何度もヘンリーに電話を促し、進展のない絶望的な自分よりもヘンリーとその家族が持つ僅かな可能性に残りのバッテリーを託す。

社会的なつながりの中にしか生きられない人間。他者を慮ることはそんな人間のかすかな本能かもしれないという希望。男はたとえ家族が見つからなくとも、ヘンリー一家の再会を祈り、その光景を想像することでようやく生きていけるのかもしれない。ひとつの生は多くの死の裏返しなのだ。

田中 啓一
田中 啓一のプロフィール画像
詩人だねぇ
9

公開してくれた事に感謝

「絶対当事者でなければ分からない事」を
この映画は疑似体験させてくれます。
「自分には足りないものだらけだ」という事実も僕は教えられました。

「ヒアアフター」の何倍もの衝撃度です。
とくに水中のシーンは観ているこちらも窒息しそう。
どういう撮影をしたのかは、
http://www.fxguide.com/featured/the_impossible/
http://www.youtube.com/watch?v=zt5NysYrLeU
この辺りをどうぞ。撮影風景も驚愕です。

真摯な作品作りであろう事は、観ていて十分に伝わります。
ナオミ・ワッツの勇気に改めて敬服します。本当に素晴らしい女優だ。

東日本大震災と重なり、公開すら危ぶまれた本作。
公開した英断を僕は支持し、感謝します。
本当に観れて良かった。

「忘れる・忘れない」じゃなく、
まだ僕は分かってもいなかったのです。

完山 京洪
完山 京洪のプロフィール画像
映画人
9

応えねばならない。

このレビューにはネタバレが含まれています。

3.11で様々な映像コンテンツが影響を受けた。この映画も公開を危ぶまれた。しかしついに劇場で封切られた。観たのが郊外シネコンだったからかもしれない。天気が良かったからかもしれない。それらを割り引いても、観客が少ない。…これじゃいかん。みんなどうした?

3.11以降、それを通奏低音にしながら自主・小規模レベルで多くの日本映画が作られた。全てを観ているわけではないので言葉が過ぎれば申し訳ないが、どうも「他人事」感がぬぐえなかった。観た映画はどれも頭でっかちに「正しくあろう」としていて、おまけにセンチメンタルだ。

この映画を作り上げたスペイン人製作者たちのシンプルな「生命感」にリスペクトを抱く。「生き残る」「家族を見つけ出す」それだけに軸を絞る。数々の危機がその軸に絡みついて強く太く重く進む。様々なメディアで様々な被災の姿が描かれた。その中で被災者とそうでない者たちに共通するものの大きな一つは「家族」だ。

津波に巻かれる「人」。瀕死の重症。裸足で瓦礫を踏む痛み。徹底した制作、迫真の演技。「侠気」と言ってもいいほど。

長男ルーカス(トム・ホランド)が母マリア(ナオミ・ワッツ)を救うため「兄弟は死んだ!」と言い切って大木に向かわせようとする台詞に、素直に頷いてしまう自分がいた。それに打ちのめされた。

映画は強く問う。おれは生き残れるのか。守れるのか。探せるのか。戦えるのか。その思いを強く抱けるだけ、今の家族を友達を愛せているのか。

3.11を捉えること自体、様々な社会政治的要素に囲まれて上手くいかない。「命」を大声で叫ぶ人々に限って「活動的」だから信用ならない。ただ「共に生き延びること」だけに専心できないか。政治的な正しさなんて後でいい。

3.11にはシンプルな物語がたくさんあるはずだ。
作るのか。もう一度彼の地を旅するのか。
どうにかしてこの映画に応えねばならない。

Daisuke O-oka
Daisuke O-okaのプロフィール画像
VTRディレクター

『インポッシブル』のカラーレビュー

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