ファミリー・ツリー

2012年05月18日公開
ファミリー・ツリーのポスター
7.9

どんな映画

素行不良なお姉ちゃんが母の容態を知り、涙をこらえてプールに潜るシーンは映画の中の好きの動作のひとつ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
フリークレビュー
7

愛なきところに、許しなし。

このレビューにはネタバレが含まれています。

この映画を観る直前に、パンフレットを立ち読みした際、「許し」という言葉が目に入った。
「もしや、うんざりなテーマの映画?」
この懸念、スマートに裏切ってくれました。

本作のいいところ、まず一つ目。
ハワイという舞台と、登場人物たちの裕福な設定。
「金持ち喧嘩せず」とでもいいますか、相当シビアな状況でも、どこかピースフルなのだ。
この全体を包む世界観が、多分、キモ。

そして2つ目。
ジョージ・クルーニー演じる主人公をはじめ、登場人物たちが全員、ちょっとずつ浅はかなところがいい。
浅はかながら、現状よりいい答えを探そうとする過程で、ほかのことがうまく回り始めたりもする。
そういった展開が、「そういうことなんだよ」と、優しく教えてくれるような気がするのだ。
劇中の主人公も、妻の浮気の件がなければ、島の土地を売っていたわけだし。

で、冒頭の「許し」の件。
誤解を恐れず言うならば、
許しなんてものは、ちょっと譲ったくらいで十分なのだ。
ひとつの譲りが、めぐりめぐって、なんだかいい方向に転がる。
ひとつの譲りが小枝とするなら、ふと気づく頃に木の体を成している。

そもそも、愛も情もないところに許しの発想はないのだから。

などと、自分の考え方や思いをめぐらせる自由を与えてくれる作品。
その「観る者への委ね方」が、押し付けがましくなく、かつ、放りっぱなしでもない。
ここで、一つ目の世界観がじわりと効いてくる。

「過激な設定やエピソードをつないで、あとは自由にどうぞ」という無責任な作品とは一線を画すものになっているんじゃないかなー。

もう少し短かくまとまっていたら、1点アップしてたかも。

茅野 布美恵
茅野 布美恵のプロフィール画像
会社員
8

バランス感覚が抜群の家族ドラマ

非常にセンスが良い作品。
深刻な事が起きているのに重く感じさせない軽やかさ、
ユーモアと毒のバランスはペイン監督の真骨頂。

今回のジョージ・クルーニーはほんとに上手い。
オーラを完全に消し、冴えなくて憎めない父親になりきっている。
長女役のシャイリーン・ウッドリーの名前は覚えておこう。
チャーミングで少しクセのある美少女、ブレイクしそう。

父親はもちろん、どのキャラクターも魅力的で誰かに少しずつ感情移入できる。泣きも笑いもさりげない。良質な家族ドラマを堪能。
そして、素晴らしいラストシーン。ラストが良い映画はさらに好きになる。

個人的には『アーティスト』よりも『ヒューゴ〜』よりも
断然良くて作品賞はこれがよかった。

すべての世代、誰が観ても楽しめる。そんな優等生な作品。

小口 心平
小口 心平のプロフィール画像
映画宣伝マン
9

個性のなさに、こだわりがある

昏睡状態の妻には実は浮気相手がいて、仕事にかまけて妻も子どももほったらかしていた中年男が人生の岐路に立たされる―というプロットには真新しさのカケラもない。妻に去られた売れない小説家が旅先で新しい恋に出会って人生を再スタートする―という物語も、あらためて映像化するのが躊躇われるくらい平板だ。

レクサンダー・ペイン監督のスゴさは、スクリーンの中で展開する物語を、観る者に“自分事化”させる力にある。ペイン作品を観た誰もが、妻に未練たらたらのワイン好きに自分を重ね、ハワイに住むジョージ・クルーニーにすら自分を投影してしまう。

この“自分事化”を第一に考えるからこそ、プロットは誰しもが経験しうるフツーの話なのであって、逆に「ちょっと変わった映画っぽい話」では困るのだ。

それは表現方法についても言えることで、ペイン作品はカメラワークも編集も、もっと言ってしまえば脚本にも、突出した個性というものがない。決して作家の個性を押し売りせず、ひたすらキャラクターの人生に寄り添うことで生まれる映画との一体感。ある意味、強いこだわりがあって初めて成立する世界観なのかもしれない。

それによって生まれる鑑賞後の多幸感。いつまでも彼らの物語に寄り添っていたいと思わせる映画の力。これこそがペイン作品の最大の個性なのだ。

実はこの解釈、先日キャメロン・クロウ監督の新作「幸せへのキセキ」を観た際にその思いを強くした。こちらも鑑賞後感さわやかな人間賛歌だが、監督のアプローチはまったく違う。そのへんの違いについては、後日「幸せへのキセキ」レビューにて。

「ファミリー・ツリー」を観たのはもう1ヶ月以上前だが、鑑賞後の余韻は今でもまだ残っている。アレクサンダー・ペイン監督の映画には、そういう力がある。

芳賀 健
芳賀 健のプロフィール画像
映画ライター・編集
9

天才監督10年での変化

アレクサンダー・ペイン作品と言えば個人的には『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(99年)や『アバウト・シュミット』(02年)といった作品で見せていた「猛毒」の印象が強い。7年ぶりの監督作となったこの『ファミリー・ツリー』はそれらの中でも『アバウト・シュミット』と比較されるべき作品だろう
妻を亡くした老人(ジャック・ニコルソン)を描く『アバウト~』と主人公(ジョージ・クルーニー)の妻が死に向かう『ファミリー~』は明らかに相似形を成している。何れの作品も「喪失」が題材であり、「空白」が作品の中心に在る。『アバウト~』では一人の男がその「真空」に吸い込まれていく虚無感、それまでの人生全てが相対化されていく様をどこまでも露悪的に描いていたが、本作はその真逆を行く。キャラクターを見つめるその視点は舞台となるハワイの太陽のように暖かい。
原作は未読だが、脚本が実に素晴らしい。本筋とどのように関わるか疑問符が浮かんでいた土地売買の話が物語の根幹にまで関わってきたのには感服した。登場人物達の意外な行動で観客を驚かせる作風は『ハイスクール白書』『アバウト~』と同様だが、脚本はそのアクションに感情的な説得力を与え、クルーニーを始めとした俳優達全員による見事な演技がそれを補強する。全てをまとめ上げたペイン監督の演出力の高さも言うまでもない。文句の付けようがない名作である。
ヒューマンな傑作を生んだからといってペイン監督は決して「軟化」したわけではない。さらなる高みへと「進化」したと言えよう。

岸岡 卓志
岸岡 卓志のプロフィール画像
るろうに
9

my love, my friend, my pain, my joy

このレビューにはネタバレが含まれています。

ラストシーンの黄色いキルトは、『ブロークバック・マウンテン』の血染めのシャツを連想させる。いうまでもなくキルトは、そこにはいない母そのものだ。父娘がキルトにくるまってテレビを見るラストシーンで、キルトは母の不在を説明し、同時にその存在をあらためて意識させる。

まず、幼い末娘がキルトにくるまっている。そこに父が潜り込んできて、最後に長女が加わる。父は丁寧に娘たちにキルトをかけ直してやる。こうして3人が「母」に抱かれることで、家族4人の団欒がなりたつ。
このキルトに潜り込んでくる順番は、かつて母(妻)から心が離れていった順番ではないだろうか。最初からキルトに抱かれている末娘は母と反目していない。これは演出のからくりがそうなっているというよりは、ごく自然にそう感じるのだ。

散骨とともに3人が浮かべたレイを海中から見上げるシーンがある。太陽を背に光る3つのレイと3人が乗るボートの底が波に揺れている。これはもしかしたら海に葬られた母親の視線なのではないか、そう考えた瞬間、レイのひとつがハートを象ったように見えた。
考え過ぎかもしれない。でも大切なのは、そういう演出があったかどうかではなく、自然とそう思わされてしまったということだ。

許しの映画にして、許す許さないは重要視されない。相変わらず、登場人物のありのままを見守るアレクサンダー・ペインの視線は、愛憎が同時に入り交じるすべての感情を肯定し、それらを明確に切り分けるような結論を持たない。これはアレクサンダー・ペインの「作家性」ではなく、「人間性」によるものだと考えたい。
それは主人公の最後のセリフにも表れている。
Goodbye, my love, my friend, my pain, my joy.
許すも許さないもないのだ。それが俺たちだったんだから。

※「love」を「妻」と訳した林完治さんの字幕が感動的でした。

田中 啓一
田中 啓一のプロフィール画像
詩人だねぇ
8

喪失を温かく描ける強さ

A・ペイン監督の描く悲哀が多くの人に受け入れられている理由は、
絶対に過度に描かないユーモアと、登場人物を批評しない視点だと思う。

今回も一見、目新しさのない物語に対し、
監督はあらゆる点で違いを生み出すことに成功している。

大きな違いは二点。一つは舞台設定。
今までの映画の舞台としての「ハワイ」に全く違う顔を見せた事。
もう一つは、人物への距離感と視線。
後者はA・ペイン監督だけが持つユニークなもの。

リアリティあるオチどころがひどく心地よい。
絶妙な脚本と演出が、俳優を、小さな物語を、輝かせる。

監督は僕が憧れる現代のトップランナーの一人。
今回もジョージ兄貴は最高です。

完山 京洪
完山 京洪のプロフィール画像
映画人
8

誠実な人々

このレビューにはネタバレが含まれています。

 中年男の苦悩を描いているような映画で、そんなのにお金を払うのもいかがなものかと思いながらも見に行ったら、自分にも身近な問題が語られており、非常にのめりこんで見た。

 妻の浮気相手がどんな嫌な人間だろうと思っていると普通の家庭を愛する気のいいおじさんで、拍子抜けした。しかも彼は何でもペラペラしゃべる正直者だった。その上、浮気相手の奥さんが非常に魅力的な上出来な人物だった。問題から目をそらすことなく、正面から向き合おうという姿勢が大変素晴らしく感動的だったんだけど、現実はそこまで上出来な人物ばかりじゃないだろうと思った。

 また、実際彼らはハワイの王族の家系で超大金持ち、主人公は弁護士でもあり、ガンを患っていると冒頭で語っていた割りにジョギングまでして健康体にしか見えなかった。そんな暮らしをしていて苦悩とはちゃんちゃらおかしいと思わなくもなかった。それも含めて包み隠さないところも誠実であった。

古泉 智浩
古泉 智浩のプロフィール画像
マンガ家

『ファミリー・ツリー』のカラーレビュー

  • 9
  • 9
  • 9
  • 8
  • 8
  • 8
  • 8
  • 8
  • 8
  • 8
  • 8
  • 8
  • 7
  • 7
  • 7
  • 6
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  

みんなのメモ

田中 啓一

素行不良なお姉ちゃんが母の容態を知り、涙をこらえてプールに潜るシーンは映画の中の好きの動作のひとつ。