少年は残酷な弓を射る

2012年06月30日公開
少年は残酷な弓を射るのポスター
6.8

どんな映画

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フリークレビュー
3

不快極まりない心象風景

理屈なき慈愛の対象となるべき存在から理不尽な悪意を向けられるという悪夢。子育ての経験がある者にとってこれほどの恐怖はないだろう。どんなホラー映画よりもこの映画が描く闇は深く、おそろしい。

この映画は主人公たる母親の目線で語られる。悪意をむき出しにする息子も、理解を示さない夫も、侮蔑の眼差しを向ける同僚も、実はすべて主人公の主観によるものだ。

路面をつぶれたトマトが埋め尽くす冒頭のトマト祭りのイメージや赤いペンキによる中傷の落書きは、主人公の心象風景となり、深紅の血を思わせる不快な色をもって観客の心をざわめかせる。
また、ジョニー・グリーンウッドによる風変わりな音楽も、状況にそぐわない不協和音の連続で気持ち悪さを演出する。

映像と音楽による母親の心のざわめきの表現は、やりすぎなほどに効果的だ。個人的には、はっきり言って不快極まりない表現の連続に辟易した。

また、少年の悪意についての説明を意図的に放棄したことも、あまりの救いのなさに気が滅入る。映画でこれほど嫌な気分になるのも珍しい。

ただし、見方を変えれば、この映画はそれほどまでに深く観る者の心に訴える力があるということだ。作り手の狙いは嫌というほどはっきりしていて、その狙いにバカ正直なほどグサリとやられてしまった自分がいる。

子育て真っ最中の親視点から、不快さをどうしても抑えることが出来ず採点は辛いが、映画としての力は素直に認める。鑑賞すれば、どう転んでも忘れがたい映画体験になるはずだ。

芳賀 健
芳賀 健のプロフィール画像
映画ライター・編集
6

We Need to Talk About Kevin.

鑑賞中も観賞後も何度も口にせずにはいられない
見事なタイトル。

ティルダ・スウィントンの素晴らしい演技を観終わった後、
エンドロールにエグゼクティブ・プロデューサーのところに
彼女の名がクレジットされているのを見て、
日本も早くこうなれば良いのに、って改めて願った。

ケヴィンを振り切って描くことで
短時間で積み重ねる意図があったのかもしれない。
子の無垢な愛を否定する事で生まれる恐怖と苦悩。

でもやはりこの映画での監督の意図は、
親と子の本質とか家族の関係性を突くことよりも
タイトル通りの事を観客に求めているような気がする。

"We Need to Talk About Kevin."
「私たちはケヴィンについて話し合う必要がある」

そう、観終わった後に語り合いたくなる作品。

完山 京洪
完山 京洪のプロフィール画像
映画人
7

射すくめられて(←この邦題がよくない?)

このレビューにはネタバレが含まれています。

どっちつかずの映画である。「どっち」というのは、
「ナチュラル・ボーン・モンスターというキャラクター押しのサイコパス・スリラー」なのか「不幸なボタンのかけ違えによる母子関係の歪みが暴走したなれの果てのヒューマンドラマ」なのか。ラスト数分までは前者だった。

なんといっても配役が絶妙なのだ。
瞳孔の開いたような目で神経質に虚空を見つめる薄幸の母親T・スウィントンと、目を見張る美しさの皮下に隠しきれない邪悪さを湛えた息子を演じるE・ミラーをはじめ、オーメンをリブートするなら今すぐコイツで!と思わせる少年期の息子にJ・ニューウェル、イライラするほど勘の悪い夫にうってつけのJ・C・ライリー、天使のように無垢な娘にエル・ファニングからイビツさをスッと抜きとったような透明感あふれる少女A・ガーラシモビッチ、おまけに、登場するやいなや「あ、こいつ死ぬな」と直感させてしまう愛くるしいモルモット。
とにかく主役から生贄となるペットにいたるまで、一見してそいつのこれまでとこれからをスッと呑み込ませてしまう説明不要のキャスティング。
これはもう、キャラ押しのモンスター映画に違いない。
さあ21世紀に蘇ったダミアンと不幸な母親の攻防を、たっぷり愉しませてもらおう。

ところが突如その関係は修復する。決して交わることのなかった母子は、何の前触れもなく通じ合い、真心の抱擁をする。実に肩すかしな理由で。
このメンタル的な辻褄の不整合は映画の成り立ちをも揺るがす。
「キャラ押しのモンスター・スリラー」は、突如「なれの果てのヒューマンドラマ」として、希望を添えて収束してしまうのだ。
はしごを外された観客に、落とし所が見つかるはずもない。

しかし首を傾げつつ反芻するも、目に浮かぶはケヴィンのことばかり。
魅力にあふれたキャラクターに射すくめられて、なぜかこの映画をバッサリ斬り捨てられないでいる。

田中 啓一
田中 啓一のプロフィール画像
詩人だねぇ
7

体調悪くした

このレビューにはネタバレが含まれています。

原作は未読なので、どの程度少年、母親の心理に踏み込んでるのかわかんないけど、映画は予告編みた時は初期のキム・ギドクみたいな剥き出しの悪意を淡々と描く内容かと思ったらむしろ、ぼかしてぼかして。いや、そこから読み取れるものもあるけど「いや、それはどうかな〜」ってかわして。

父親がジョン・C・ライリーなんで少年の美しさは母親譲りでどこか同族嫌悪な感じで母親の暗黒面をそのまま受け継いだのが息子か…って寓話な作りにもなってないし息子の母親に対する不条理(に見える)悪意はひたすら不気味。最後、母親が息子を受け入れるのも自分の中の悪意を認めただけだったりして。よくわかってないけど。

時制や心理描写などの意図的に混乱させてるのがスティーブン・ソダーバーグの「イギリスから来た男」っぽいなぁと思ってたら製作総指揮やってたんすね。この編集の緊張感は中々凄かった。

そのせいかわかんないけど、時々胸元あたりに感じる不快感がマックスになって途中席を立ってトイレに行って、席に戻らずドア付近で立ったまま最後まで見届けましたよ。映画館の人に怪しまれつつ。それだけの緊張感を最後まで保ってた映画だった。

川崎 タカオ
川崎 タカオのプロフィール画像
イラストレーター
8

これは、出産までの物語。

冒頭。トマトにまみれて困惑したまま担ぎ上げられるティルダ・スウィントン。
本作は全編において、「血を思わせる赤」に彩られる。
そのほとんどは、息子・ケヴィンから発信される恐怖と強くリンクする。
が、この冒頭の血は、母・エヴァが生れるシーンのそれ。
その表情には戸惑いが色濃く残る。

そして、その困惑は、ラストにケヴィンが見せる落胆に満ちた驚きに集約されるのだ。
「母さん、本当に今まで気づいてなかったの?」

すごい話だ。
だけど、これを自分には無関係と観ることができる人がいるだろうか。
目の前で繰り広げられていることの本質に、さまざまなものが目隠しをする。
愛と呼ばれるものまでも。

クタクタになったエヴァがケヴィンに対峙したあの最後の面会が、母としての出産と信じたい。
絶望から始まる誕生の物語。

茅野 布美恵
茅野 布美恵のプロフィール画像
会社員

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